なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注22

公開: 2021年4月26日

更新: 2021年6月6日

注22. 大国の興亡

1987年、米国の歴史家、ポール・ケネディは、1500年から1980年までの歴史を振り返り、大国の政治と経済の発展、そして衰退の過程を分析し、米国社会のように繁栄した社会が、どうして衰退してゆくのかの理由を、政治、経済、軍事の資料に基づいて分析した。

ケネディは、大国の成立には、その時代の世界における周辺の国々との相対的な力の関係が重要であり、特定の要因だけでは決まらないと述べた。つまり、大国の台頭は、その国が利用できる資源の質と量が、周辺国との相対的な関係で優位に立っているかどうかや、その国の国民自身が生産できる財の相対的な質と量に強く関係すると結論付けた。

さらに、ケネディは、大国は、自国の利権を維持し、それを拡大するためには、周辺国に対して相対的な軍事力の優位性を保つことを余儀なくされると指摘した。しかし、その軍事力拡大のための経済的な負担が過剰になると、経済力の衰退を招き、その国が自力で獲得できる資源以上の量を確保しなければならなくなるという問題に直面するとした。

この大国の政治・経済を維持・拡大するための軍事・安全保障上の投資が、結果的にその国の本当の経済力を上回ると、国家経済が破綻し、大国は滅んでゆくとケネディは説明している。このことは、第1次世界大戦と第2次世界大戦によって、米国とソビエト連邦が大国化し、ドイツ、フランス、イギリスなどが衰退した歴史によく符合する。

しかし、ケネディは第2次世界大戦後の世界で、2大大国化した米ソ両国も、冷戦期を通じて、巨大な軍事投資を続けた結果、日本や中国などの台頭を許したと述べた。この「大国の興亡」は、1988年に米国でベストセラーとなった。1990年には、アメリカ合衆国と覇権争いを続けていたソビエト連邦も経済の破たんから、崩壊した。

参考になる読み物

大国の興亡(上・下)、ポール・ケネディ(鈴木主税訳)、草思社、1988